チチチ……と鳥のさえずりが聞こえ、うさぎはゆっくりと瞼を開いた。
目の前に、自分と同じ赤目と白髪の女性がいる。
「……ぁ」
「よかった。お目覚めになって」
女はそう言うと、うさぎをゆっくりと起こしてくれる。
そうだ、ここは神様のおわす場所。
私は花嫁という『贄』となり、ここに来たのだ。
花嫁衣装は脱がされ、衣桁にかけられている。
今は寝間着を着せられていた。
「申し訳ありません、驚かれたでしょう? もう、荒日佐彦様がよく確認もしないで怒鳴るんですから。あのお方、生まれてまだ三百年だから短気なのですよ」
「ええと……いったいどうして、私は叱られたのでしょうか? もしかしたら何か不快なことを、知らずにやってしまったのでしょうか?」
心配になって似た容姿を持つ女性に尋ねる。
女はお茶をいれ、それをうさぎに私ながら答えてくれた。
「お嫁様にはなんの落ち度もありませんよ。荒日佐彦様が神使たちの悪戯だと思ってカッとなってしまったのです。反省しているご様子ですので、許して差し上げてくださいな」
「『神使』というと、夜に出迎えてくれた白兎たちでしょうか?」
「ええ、そうです。かくいう私も今は人の姿をしておりますが、元は白兎ですの」
ほら、と真っ白な靄に包まれたと思ったら白兎に変わる。
「お嫁様のお世話をするなら、人の姿の方がいいとの荒日佐彦様のご命令で。これからはなんでも言いつけてくださいね」
キャッキャと楽しそうに笑うと、また人の娘の姿になった。
白い髪に赤い目――やはり自分と似ている。
「きっと、私の容姿のせいでお間違いになってお怒りになったのだわ。だとしたら勘違いしてもしかたがありませんもの。荒日佐彦様に、なんの落ち度もありません」
「お嫁様はお優しい……」
感激してしつつも人の姿になった女は、お茶のおかわりを注いでくれる。
「私の名前はアカリといいます。どうぞそうお呼びください」
「あ、私は……」
自己紹介しようとしてうさぎは自分の名前が恥ずかしくなり、口ごもってしまう。
「お嫁様はなんとお呼びしたらいいでしょう?」
アカリは、ウキウキとした様子を隠さずに尋ねてくれる。
自分たちが呼ばれている名と同じだとびっくりされないだろうか? それとも、同じ名前だと怒りやしないだろうか。
うさぎは怖ず怖ずと口を開く。
「……う、うさぎと……」
しばらく沈黙が起きた。
赤い目をカッと見開き自分を見つめてくるアカリに、うさぎはなんとも居心地の悪さを感じる。
アカリは「?」と言いたげに首を傾けると、うさぎの周囲をぐるぐると回り始めた。
「あ、あの……」
二回ほど回って元の位置に座ったアカリは、また不思議そうに首を傾ける。
「やっぱりお嫁様はうさぎじゃありませんし、神使でもありませんよ? 人のわりにはお力がある以外は」
――力?
うさぎはアカリの言葉に疑問が湧いたが、今は名前のことだと心の隅に留める。
「え、ええ……その、この容姿で『うさぎ』と名付けられたんです」
そういうとアカリは、ぱあっと嬉しそうな顔をしてうさぎの手を握った。
「じゃあ、一緒ですね!」
その反応にうさぎは驚き、そのあと嬉しくて視界が揺らいでくる。
「あ、ありがとう……」
こうして親しげに手を握られるのも、容姿をさげすまれなかったのも初めてだ。
たとえ人でなくても、うさぎは嬉しかった。
目の前に、自分と同じ赤目と白髪の女性がいる。
「……ぁ」
「よかった。お目覚めになって」
女はそう言うと、うさぎをゆっくりと起こしてくれる。
そうだ、ここは神様のおわす場所。
私は花嫁という『贄』となり、ここに来たのだ。
花嫁衣装は脱がされ、衣桁にかけられている。
今は寝間着を着せられていた。
「申し訳ありません、驚かれたでしょう? もう、荒日佐彦様がよく確認もしないで怒鳴るんですから。あのお方、生まれてまだ三百年だから短気なのですよ」
「ええと……いったいどうして、私は叱られたのでしょうか? もしかしたら何か不快なことを、知らずにやってしまったのでしょうか?」
心配になって似た容姿を持つ女性に尋ねる。
女はお茶をいれ、それをうさぎに私ながら答えてくれた。
「お嫁様にはなんの落ち度もありませんよ。荒日佐彦様が神使たちの悪戯だと思ってカッとなってしまったのです。反省しているご様子ですので、許して差し上げてくださいな」
「『神使』というと、夜に出迎えてくれた白兎たちでしょうか?」
「ええ、そうです。かくいう私も今は人の姿をしておりますが、元は白兎ですの」
ほら、と真っ白な靄に包まれたと思ったら白兎に変わる。
「お嫁様のお世話をするなら、人の姿の方がいいとの荒日佐彦様のご命令で。これからはなんでも言いつけてくださいね」
キャッキャと楽しそうに笑うと、また人の娘の姿になった。
白い髪に赤い目――やはり自分と似ている。
「きっと、私の容姿のせいでお間違いになってお怒りになったのだわ。だとしたら勘違いしてもしかたがありませんもの。荒日佐彦様に、なんの落ち度もありません」
「お嫁様はお優しい……」
感激してしつつも人の姿になった女は、お茶のおかわりを注いでくれる。
「私の名前はアカリといいます。どうぞそうお呼びください」
「あ、私は……」
自己紹介しようとしてうさぎは自分の名前が恥ずかしくなり、口ごもってしまう。
「お嫁様はなんとお呼びしたらいいでしょう?」
アカリは、ウキウキとした様子を隠さずに尋ねてくれる。
自分たちが呼ばれている名と同じだとびっくりされないだろうか? それとも、同じ名前だと怒りやしないだろうか。
うさぎは怖ず怖ずと口を開く。
「……う、うさぎと……」
しばらく沈黙が起きた。
赤い目をカッと見開き自分を見つめてくるアカリに、うさぎはなんとも居心地の悪さを感じる。
アカリは「?」と言いたげに首を傾けると、うさぎの周囲をぐるぐると回り始めた。
「あ、あの……」
二回ほど回って元の位置に座ったアカリは、また不思議そうに首を傾ける。
「やっぱりお嫁様はうさぎじゃありませんし、神使でもありませんよ? 人のわりにはお力がある以外は」
――力?
うさぎはアカリの言葉に疑問が湧いたが、今は名前のことだと心の隅に留める。
「え、ええ……その、この容姿で『うさぎ』と名付けられたんです」
そういうとアカリは、ぱあっと嬉しそうな顔をしてうさぎの手を握った。
「じゃあ、一緒ですね!」
その反応にうさぎは驚き、そのあと嬉しくて視界が揺らいでくる。
「あ、ありがとう……」
こうして親しげに手を握られるのも、容姿をさげすまれなかったのも初めてだ。
たとえ人でなくても、うさぎは嬉しかった。