閑話休題(――かさちゃんに教えてもらった言葉だ)。
ともかくつまりは、この集めた蓋の表面を1枚ずつマジックペンで黒く塗りつぶしていけばいいというわけだ。
「それじゃ、このコマと同じようによろしくね、さきちゃん」
「おおー、任せといて!」
そうして、私とかさちゃんは昼休みの時間に協力して、白黒のコマをどんどん作っていった。
ふたりで協力して、何かに没頭することがこんなにも楽しいとは思わなかった。
からっぽだった私の心もこんな風に塗りつぶされて、色がついたのかもしれない。……あはは、モノクロだけどね。
さらに次の日の昼休み。私たちはクラスのみんなを呼び集めた、あるいは呼び止めた。
今からデスゲーム、……じゃなくってリバーシ大会を開くためだ。
みんな何事かと集まってきて、黒板の前に立つ私とかさちゃんを見つめている。
――その中には、竜二くんもいた。だけど、今日の私はその視線から目をそらすつもりはなかった。
むしろその目をじっとにらみ返してやる。……見てなよ、竜二くん。これが私とかさちゃんの答えだ!
「おいおい、急に集まってくれってなんの用だよ。
俺ら、さっさとドッジしに行きたいんだけど」
「そうだ、そうだ、竜二の言う通りだぜ。
くだらないことだったら怒るからな!」
「ちょっと男子! さきちゃんが話しようとしてるでしょ!
静かにしなさいよ!」
竜二くんたちと花ちゃんが言い争いになりそうになっている。だけど、私は焦らなかった。
この催しに絶対の自信があったからだ。そして、腕組みをしながらみんなの前で宣言してやった。
「大丈夫だよ、安心して! これはちゃんとみんなを楽しませてあげられる催し物なんだから!
よーし、ということで、かさちゃん説明してあげて!」
「えっ、私!?」
かさちゃんは戸惑ったように目を見開いている。
でも、だって私は説明あんまり上手くないし……。こういうのは役割分担ってやつだよね☆
私がウインクを向けると、かさちゃんは渋々といった様子で説明を始めてくれた。
「ええっと、みんなごめんね。今日集まってもらったのは、みんなに新しい遊びを提案したいからなんだ。
みんなはこれを見て、なんだか分かるかな」
そう言いながらかさちゃんは、ます目が書かれた画用紙と、白黒の状態になったビンの蓋をみんなに見せる。
それに真っ先に反応したのは、花ちゃんだった。
「あ、もしかして白黒のコマをひっくり返して遊ぶゲーム!?」
「うん、花代さん、正解だよ。
これはリバーシっていうゲームで、まず最初に黒と白を交差するように2つずつ置いて――」
そうしてルールの説明が終わると、いよいよゲームのスタートだ。
ゲーム盤は3つ分用意してあるけれど、まずは見本ということでみんなには私とかさちゃんの試合を見てもらうことになった。
「それじゃ、とりあえず先番は私ってことで! そりゃ!」
私は画用紙でできたゲーム盤に、牛乳ビンの蓋でできたコマを勢いよく打ち下ろす。
すると、そこでかさちゃんのツッコミがさく裂した。
「さきちゃん、先番なら黒だよ! それは白石!」
「まあ別にいいじゃん! どっちでも変わらないでしょ!」
「もう、いいかげんだなあ……」
そんな不満を漏らしつつも、かさちゃんはそのままゲームを続行してくれた。
ゲームの序盤は私の白石のほうがかさちゃんの黒石よりも多い状態が続いて、有利な状況を作れているように感じられた。
「あれあれ、かさちゃん。もう盤面白まみれだよ?
このまま私が勝っちゃうかも!」
「んー、別に問題ないかな。リバーシはね、最後に石が多いほうが勝ちなんだよ。
中盤まではむしろ石を少なく取ったほうが、打てる場所が増えて有利なんだ。
あと四隅の斜め前はX打ちって言って、隅を取られやすくなっちゃうから打たないほうがよくて。
……って、前におじいちゃんに教えてもらったことがあるんだけど」
そんな話をしながら、ゲームは中盤に差し掛かった。かさちゃんの黒石は2つ、3つしかなくて、ここから逆転できるだなんて思えなかった。
でも、そこからだった。だんだんと私の白の世界がかさちゃんの黒で染められていく。
かさちゃんのほうはたくさん石をひっくり返せるのに、私は少しずつしか返せない。そんな場面が続くと、ついには私の打つ場所がなくなってしまった。
「ここは白のパスになるから、続けて黒の番だね」
「うぅ……、私の白が黒に変わっていくのを見ているしかできないなんて!」
その試合の結果は、60対4でかさちゃんの圧勝だった。四隅もかさちゃんに取られて散々だった。
そこで花ちゃんと竜二くんが歓声をあげた。
「すごーい! 雨宮さんってゲームがとっても上手いんだね!」
「やるじゃねえか、雨宮! 早川がボコボコにされてて気持ちよかったぜ!」
「むー! そんな風に言うなら竜二くんもやってみてよ!
かさちゃんってば、本当に強いんだから!!」
なんて不満げに言ってみたけど、私も竜二くんも、それは冗談のつもりだった。
その証拠に、彼は私の売り言葉に豪快に笑ってくれた。
「あっはっは、そんじゃやってやろうじゃねえか!!
よろしく頼むぜ、雨宮!」
「う、うん!」
そうして、かさちゃんと竜二くんのゲームが始まる。それを横目に私は花ちゃんとやることにした。
残りのもうひとつの盤はクラスの男の子たちが使うようだ。そして、数分後には勝った負けたの大騒ぎだった。
そんなリバーシ大会は、みんなで交代交代に遊んで大盛り上がりだった。
私はクラスのみんなと、竜二くんに花ちゃん、――そしてかさちゃんと本当の意味で初めて打ち解けられたような気がした。
だって、こんなにも楽しい気分になったのは、生まれて初めてのことだから。そして、そんな気分をみんなと共有できたから。
……あのね、かさちゃん。私、あなたと友達になってから、朝起きるのが楽しみになったよ。
「ずっと何かの準備をしていると思っていたら、こんなことを考えていたんですね」
……どきり。その声は、杉田先生のものだった。
先生にはこんな風にゲームで遊ぶ準備をしているなんて、一言も言っていない。
もしかしたら怒られるかもしれないと思っていたから、先生が職員室に行ったタイミングでみんなに声をかけたのだけど、結局見つかってしまったようだった。
そして私が口を開くよりも早く、かさちゃんがいつもの口癖を口にした。
「す、すみません! 私が言い出したことなんです!
だから別にさきちゃんは悪くないっていうか、しかるんだったら私をしかってください!」
「あら、そうなのですか? 先生はてっきりふたりで計画したことだと思っていましたよ。
どうなのですか、早川さん?」
先生が私の目をじっと見つめて問いかける。その口調はとてもおだやかなように感じられた。
だから、――いや、そうでなくても、私は正直に話をすることにした。
「ふたりで話して決めたことです。だけど、かさちゃんは私のために一生懸命考えてくれたんです。
私、この前ドッジボールで怪我をしてから、竜二くんたちと遊びづらくなって。