──好きな人の願いならどんな願いでも叶えてあげたいじゃないすか。

 耳を真っ赤にしながら語る後輩の言葉が冷え切った脳内にこだまする。

 彼女の願いは彼女の全てだった。
 彼女が生きる目的で、願いを叶えることが彼女の生きる希望だった。
 だから俺は彼女の願いを叶えたかった。
 いつしか、彼女の願いを叶えることが俺の全てになっていた。
 

 でも、その願いが叶えてはいけない願いだったら?


 息もできないほどに雨が激しく降り続ける。
 滴る水滴に紛れ、彼女の涙がほほを伝う。
 しかしその涙に、弱さや悲しみはない。
 その涙に含まれる彼女の感情は怒り。
 そして、殺意だ。

 彼女は雨なんかよりもさらに冷たい眼差しで俺を見つめる。
 絶望、嫌悪、拒絶を孕んだ彼女の視線に俺は胸が張り裂けそうになる。
 それでも、痛む心臓を無視して俺もまたまっすぐ彼女を見つめる。
 俺は彼女が大好きだ。大好きだから。

「俺は、君の願いを……」

 俺の答えを聞いた彼女は踵を返して歩き去る。
 振り向く際になにかを言っていたような気がしたが、彼女の言葉は雨の音にかき消された。