―――……
わたしのいいところ……か。
そんなところがあるのかなんて自分ではわからないけれど、伊吹に言われるとちょっと自信が湧いてくる。
頑張れ、わたし。
せっかく、伊吹がわたしのために教えてくれたんだからその期待に応えないと!
心の中で気合いを入れ、大きく息を吸い込んで
『あの!』
と、目的の女の子に勢いよく声を掛けた。
だけど、ちょっと声が大きすぎたかな?と反省する。
『えっ?』
すると、女の子……曽根麻衣ちゃんがきょとんとした顔を浮かべてわたしをじっと見た。
とりあえず、無視とかはされなくてよかった……。
なんて思いながら、ホッと胸を撫でおろしたのも束の間、早く何か言わなくちゃ、と焦る気持ちがじわりと出てきてスカートの裾をぎゅっと握る。
『そ、その本……わたしも読んだことあって、面白いよね』
昨日、伊吹に言われた通り、彼女の手元にある小説の話題を振る。
―――共通の話題があると、話が盛り上がるし、人は仲良くなりやすい。
『え!あるの!?この本読んでる子わたしの周りでいなくてさ~~!中盤の主人公の言葉が染みるんだよね』
彼女はわたしの言葉を聞くと、目の色を変えてパアッと花が咲いたかのように微笑んで、弾んだ声で言った。
伊吹から教えてもらったことは正直にいうと半信半疑だったけれど、ちゃんと上手くいっている気がする。
『わかる!なんか心が救われるっていうか。最後のシーンもめちゃくちゃ感動的だよね!』
彼女の勢いに負けないくらい前のめりで言葉を返す。
自分の好きなことに対して誰かと感想や意見を伝え合うのは楽しい。
誰かとこうして共感して分かち合えるのがこんなに嬉しいなんて知らなかったよ。
『わたしあのシーン泣いちゃったよ』
『わたしもボロ泣きして伊吹に笑われちゃった』
泣きすぎだって笑いながらわたしの頭を撫でてくれたっけ。
もうわたしから彼に触れることはできないけれど、思い出はいつまでも温かくて全てが昨日のことのように思い出せる。
『伊吹……?』
不思議そうに呟いた麻衣ちゃんを見て、しまった、と思った。
わたしってば、無意識に伊吹の名前を口にしてしまっていた。
この学校では彼が馴染む前に亡くなってしまったからみんなにあまり認知されていないのだ。