翌日。


久しぶりに登校した学校は当然、前とは何も変わっておらず、そして誰かがわたしに話しかけてくるわけでもなく、クラスメイトの声で騒がしい教室の隅っこでわたしはぽつん、と一人で自分の席に座っていた。


『ほら、早く話しかけなよ。あの子は凜と合うって』

『それほんとに言ってる?』


いつまで経っても行動に移そうとしないわたしに少々呆れた表情を浮かべている彼に誰にも聞こえないような小さな声でヒソヒソと文句を言う。

わたしは今、昨日伝授してもらった“友達を作る方法”を実践しろと発破をかけられている。

何を根拠にわたしと合うなんて言っているんだろうか。

確かに伊吹はわたしとは違って、友達もたくさんいたし、人気者で好かれていたけれど、人を見る目あるとかそういうのじゃないと思う。

あれは彼自身が元々持っている魅力があまりにも輝かしいもので人を惹きつける力があったからに違いない。

もちろん、わたしにそんな魅力は悲しいけれど少しもない。


『自分から一歩踏み出さないと何も変わらないよ』


ポン、とわたしの背中を押した伊吹の表情は陽だまりのように優しくあたたかいもので本当にわたしたちと同じように生きてそこにいるかのような感覚に陥ってしまう。

……死んじゃってるのが嘘みたいな顔して笑わないでよ。

彼は自分が死んだことを受け入れているのか、わたしの前では一切、弱音や後悔を口にしたことはなかった。

わたしだったら、きっと無理だね。

幼馴染が死んだだけでも現実だと受け入れられないほどだったのに自分だったらずっと泣いてマイナスな言葉ばかり吐いてしまうだろう。


それにしても……、一歩踏み出す、ね。

本当にそんな一歩で何かが変わるんだろうか。

でも、確かにやってみないとわからない。
伊吹が背中を押してくれたんだからきっと大丈夫だ。


『これで失敗したら伊吹のせいだからね』


と、先に素直になれないために口から出た文句をぶつけてからくるりと前を向いて話しかける女の子に一歩一歩近づいていく。

彼女との距離が縮まる度にばくばくと心臓がうるさいほど音を立て、緊張で手に汗を握る。

落ち着け……わたし。

昨日、伊吹に散々言われたことを思い出すんだ。


―――……


『まず、友達を作るには自分から話しかけに行くこと。相手から来てもらおうなんて都合のいいことは考えちゃダメだ』

『えー、自分から話しかけるなんて無理だよ』

『初めから無理なんて決めつけるからだろ。やってみたら意外と大丈夫なこともあるんだって。それに俺はもっとみんなに凜のいいところを知ってほしいんだよ』


曇りのない硝子玉のように澄んだ瞳で、にっこりと太陽の光ように優しい笑顔を向けられたら、何も言えなくなってしまって結局、彼に言いくるめられたんだっけ。