伊吹だけ触れられるなんてそんなのズルいじゃない。
と、文句を言ってやろうと思ったけど、さっきの伊吹の表情を見るときっと彼も自分がもう他人に触れてもらえない存在だということに心痛めているような気がして言葉を呑み込んだ。
伊吹だって幽霊になった自分を受け入れてはいるけど、周りの反応に慣れてはいないんだろう。
『髪の毛、ぐしゃぐしゃになるからやめて』
わたしからは触れられないので言葉で伝えるしかない。
伊吹は意外にもすっとわしゃわしゃと撫でるのをやめてくれた。
『話戻るけど、凜……明日からちゃんと学校行きなよ』
『なんで?』
せっかく話が逸れたと思っていたのになんでまたその話に戻るの。
『行くことに意味があるからだ』
『だからさっきも言ったけど伊吹がいないと……』
『俺も行くから一緒に行こう』
わたしの言葉を遮って、ポンッと肩に両手を置くと双眸に力強い決意をみなぎらせて言った。
『は?伊吹も一緒に?』
予想外の提案に思わず、目が点になる。
いやいや、幽霊になった幼馴染と一緒に登校とか意味わからなさすぎるでしょ。
『そうだ。それなら別に問題ないだろ。お前以外に俺の事を見えるヤツはいないんだし』
『えっ、そうなの?』
『そうみたいだ』
てっきり、霊感の強い人なんかは見えるのだと思っていた。
だからこそわたしは霊感なんて強い方じゃなかったから初めは幽霊が見えているなんて信じられなかった。
『……んー、まあそれならいっか』
別に学校は嫌いじゃなかったけど、伊吹がいないことをひしひしと感じさせられることもあり、心も体も自然と遠ざけようとしていただけのこと。
彼がみんなには見えないとしてもわたしの隣にいてくれるなら、明日からちゃんと学校に行くことにしよう。
我ながら単純だなとは思うけれど、それくらいわたしの中では根来伊吹という存在は大きいものなのである。
『よし、そうとなれば明日は友達作りから開始だな』
『え?』
さっきから伊吹の言葉に驚いてばかりな気がする。
でも、突拍子もないことしか言わない彼が悪い。
いきなり友達作りってなんなの?
確かに人見知りで人に自分から話しかける勇気なんて全くないわたしには伊吹以外に親しい友達はいないけどさ。
『別に伊吹がいるから大丈夫だよ』
友達がいなくても伊吹さえいれば生きていける。
例え、もう生きていなくて幽霊の姿だったとしても。
『俺がいつまで凜のそばにいれるかなんてわからないだろ』
『そんなこと言わずにずっとそばにいてよ』
またいなくなるなんて考えたくない。
伊吹のいない生活なんてもう懲り懲りだよ。
『ダメだ。凜には俺がいなくても生きていけるようになってもらわなくちゃいけないから』
『なにそれ』
まるで、自分がいなくなってしまうような言い方。
『とにかく、俺がいようがいまいが友達はいた方がいいから』
これ以上、何も聞くなとでも言いたげに伊吹は半ば強引にわたしに友達の作り方とやらと教えてきた。