「……伊吹、もう大丈夫だよ」


ぽつり、と呟いた言葉に反応して、彼が視線をこちらに向けて「え?」と言葉をこぼす。


「わたし、もう死んだ方がマシなんて思わない。伊吹の分まで生きて、生き抜いてみせるから……っ」


君のいなくなった世界はとてつもなく、寂しく感じるだろう。

でも、君のおかげで一生の友達もできたし、きっとわたしが行く未来だって希望に満ちていて明るい。

今はそう思えるから。

だから、わたしから君を解放してあげないと。


「今日はわたしと伊吹の卒業式。わたしは伊吹から、伊吹はわたしから……二人で卒業しよう……っ」


大切で、大好きで、世界中の何より手放したくなかった君からわたしは今日、卒業する。


「卒業おめでとう。伊吹」


今までの感謝の気持ちを込めて、泣きながらもにっこりと笑顔を見せてもう一度、伊吹に賞状を差し出した。


「ありがとう……っ、凜」


彼もたくさんの涙を流しながら今度は両手でわたしが作った賞状を受け取ってくれた。

受け取ってくれたということは彼もわたしからの卒業を決意したということになる。

少し寂しい気持ちがあるのは許してほしい。


「成仏する方法も知ってるんでしょ?」


教壇を降りて、教室の机に後ろ手をついて浅く座り、セーターの袖で流れる涙を拭う。


「……知ってるよ。でも、その前に……」


賞状を大事そうに手に持って、わたしに近づくとそのままふわり、とわたしをぎゅっと抱きしめた。


「……伊吹?」

「凜、ずっと好きだったんだ。叶うならずっとそばにいたかった……っ、生きて、お前と一緒に人生を歩んでいきたかった……。でも、俺は新田凜を卒業するよ。最後まで俺に幸せをくれてありがとう……っ。大好きだよ」


初めて知った伊吹の気持ちに胸がじーんと熱くなる。

わたしたち……両想いだったんだね。
お互い、口にするのが遅すぎた。

でもわたしたちはとても幸せだったんだ。

もう、二度と同じ時を生きれないけれど、それでも君という人に出会えて、幼馴染としてたくさんの時間を過ごせてよかった。

だから、わたしもずっと言えずにいた君への想いを打ち明けよう。

これからそれぞれの道を歩んでいくわたしたちが後悔しないために。


「わたしも……大好きだよっ。わたしとずっと一緒にいてくれて、わたしを変えてくれてありがとう……っ、伊吹のこと絶対に忘れないから……!」


目にいっぱいの涙を溜めて、そっと体を離して言うと、伊吹はいつものように頭を撫でながら涙でぐしゃぐしゃの顔で満足げに微笑んだ。

いつも、いつもわたしを支えてくれて、こうやって頭を撫でてくれてありがとう。

たとえ、もう君に触れることも会うこともできなくなってもわたしは君という人を絶対に忘れない。