「あなたは高等学校の全課程、また新田凜の幼馴染を修了したことを証する」


その言葉と共に、彼の前に賞状を差し出す。

彼はわたしの言葉を聞いて、またしても目を大きく見開いて驚いていた。

そりゃあ、そうか。

ないと思っていたはずの賞状が自作で出てきただけでなく、そこにわたしからの卒業を意味する文章が書かれていたのだから。


「……凜、どういうことなんだ」


彼は動揺したように瞳を揺らすだけで、一向に賞状を受け取ってくれない。

仕方ない。どうせ全部後で話すつもりだったんだから今話そうか。


「伊吹、自分がなんで幽霊になったのかも成仏する方法も知らないって言ったよね?」

「……ああ」

「でも、本当は知ってるんでしょ」


わたしの言葉に伊吹は視線を落として、明らかに動揺したのがわかった。

ずっと、気になっていた。

彼はいついなくなるかわからないと言っていたけれど、それならもっと怯えながら過ごすはずなのに、頑なにわたしに関わり続けていたし、生きていた頃はわたしにあんな試練を課すようなことはしなかった。

それがまるで何かの目的があるように思えたのだ。


彼は自分のタイムリミットを知っているのではないか。

そして何より、この三年間で彼はわたしにある言葉を言わせようとしなかった。

だから、わたしは彼が何かを隠していると思ったのだ。


「さすが。凜にはほんと敵わないなぁ」


グッと唇を噛みしめて、今にも泣き出しそうなほど顔を歪ませる。


「幼馴染なめないでよね」


何年、一緒にいたと思っているの?
ちょっとした伊吹の変化にくらい、わたしだって気づけるんだよ。

物心がついた時には伊吹はもうわたしの隣にいて、良いことも悪いことも二人で乗り越えてきたんだ。
だから、今回だってきっと―――。

彼がふわり、と口の両端を優しく引き上げてからゆっくりと口を開いた。


「俺が幽霊になった理由は二つ。一つ目は君との約束を守るため。二つ目は君が幸せだと笑える日を見るため」


初めて明かされる事実に胸がぎゅっと締め付けられた。

全部……わたしのため?


「……約束って、一緒に卒業しようっていう?」

「そうだよ。だから、最初から三年間は幽霊でいるつもりだった。あとこれは俺のエゴだけど、俺がいなくなっても凜が笑って過ごせるように友達を作ってもらって、将来のこと考えて幸せに生きてほしいと思ったから見守ろうって決めた」


わたし、伊吹からどうしようもないほど大切に想われてたんだ。

だから、いきなり友達を作れとか進路について本気で向き合うように言ってくれたんだ。

伊吹の深い愛情がひしひしと伝わってきてそれがあたたかい涙に代わり、はらはらとわたしの頬を伝う。

まだ、泣かないつもりだったのに。
こんなの我慢できないよ。