『よし、じゃあ一緒にクリックしよう。ほらマウス持って』
中々開こうとしないわたしに痺れを切らした伊吹の落ち着いた声が耳に届いた。
言われた通りにわたしがマウスに手を添えると、その上から伊吹が自分の手を添えてきた。
その手に温度はなく、ひどく冷たい。
だけど、突然重なったその手に、全身の血が沸騰したように熱くなり、ばくばくと心臓の音がうるさくて、とても合格発表どころではない。
きっと、伊吹は無意識なんだろうな。
こんなにも意識してドキドキしているのはわたしだけだ。
『……ん……凜?どうかした?』
彼の名前を呼ぶ声にハッとなって一人の世界から戻ってくる。
『ごめんごめん。意識飛んでた』
『緊張しすぎ。大丈夫だって。せーのでクリックするからな』
マウスを動かして、カーソルを結果発表のボタンに合わせる。
ドクン、ドクンと早鐘を打ち始めているのは、緊張からなのか、はたまた好きな人と手が触れ合っているからなのか。
きっと、両方だ。
『ふー、わかった』
大きく深呼吸をして、彼の言葉に頷く。
泣いても笑っても結果はもう出ている。
彼と過ごす時間もあと少し……。
そんな彼に後悔や未練を残していってほしくない。
どうしても受かっていたい。
『せーの!』
伊吹の合図が聞こえてきたと同時に人差し指をカチカチと動かしてダブルクリックする。
画面が切り替わり、たくさんの番号が並んでいるのが目に入った。
そこからわたしの受験番号“1140”を必死にスクロールしながら探す。
『1132……1137……』
ドクン、ドクンと鼓動が脈打つ音が耳に響く。
お願い……!受かってて……!
ぎゅっと目を閉じて祈ってから恐る恐る瞼を持ち上げて画面を見た。
“1140”という数字が目に入った瞬間、身体の力が抜けてぽろぽろと涙が溢れ出てきた。
『……あ、あ、あったー!よかった……っ』
『さすが、凜。俺の自慢だよ』
わんわんと泣くわたしの背中を優しく摩ってくれる彼の目も潤んでいて、今にも透明な雫がこぼれ落ちそうだ。
ああ、これでわたしはなんの未練もなく彼を送り出せる。
もうすぐ、寒い冬が終わり別れの春がやってくる。
そして、卒業式も―――。