「結局、神頼みかよ」
「うるさいなあ、わたしは伊吹みたいに賢くないの!」
わたしがベッドから少し体を起こして、クッションを彼に向かって投げつけても、彼の体をするりと通り抜けてクッションは虚しく床に落ちた。
「残念ながら、俺には当たらないよ」
「ふん……!受験お疲れ様くらい言ってくれてもいいのに」
ぴゅっと唇と尖らせながら、先程投げたクッションを取りに行く。
わたしだって、あの地獄のようなスパルタの日々を乗り越えたんだから。
受験に行く前はあんなに優しかったくせに。
「お疲れ様。凜は今日までよく頑張ったよ」
「もう遅い」
ベッドにもたれかかるように座り、拾ったクッションに口元だけ埋めて、彼を見る。
「困った子だなあ」
なんて、言いながらわたしの頭をポンポンと優しく撫でてくれる。
伊吹はわたしの頭を撫でるのが好きらしい。
小さい頃から何かあれば、こうして撫でてくれた。
わたしも嫌じゃないし、むしろ好きだから抵抗もしない。
だって……好きな人にされることは嬉しいに決まっている。
さっきまであれだけ拗ねていたわたしの機嫌はみるみるうちに直っていくから恋という感情は恐ろしい。
そして、数日後……運命の日がやってきた。
『ほら、結果出てるんだから早く開いてよ』
『いやー!ちょっと待って。わたしの人生がかかってるから!ねえ!やばい!緊張で手が震えてきた……』
パソコンの前でわたしと伊吹はワーワーとうるさく騒いでいた。特にわたしが。
だって、こんなの緊張しないわけがない。
心臓が口から出てきそうだ。
『そんなこと言うから俺まで緊張してきたじゃん』
『はー、もう無理だよ。見る前に精神がすり減っていくぅー』
今日は大学受験の合否が出る日で、もう結果は出ているけれど、中々ボタンをクリックすることができずに早20分。
だって、運命がかかっているんだからそんな簡単に開けないよ。
いや、開いてもすぐわかるわけじゃなくてたくさんの番号の中から自分の受験番号を探すっていう作業が残っているんだけれど。