そんなわたしの願いも虚しくあっという間に時は流れ、わたしは高校三年生になり、迎えた受験当日の朝。


『い、いってきます……』


自分の部屋の中でカバンを肩にかけて、目の前にいる伊吹に震えた声でそう言った。

うぅ、もう緊張で吐きそう。
受験生って、みんなこんな緊張感を味わってるの?

乗り越えてきた先輩方には尊敬しかないな。

なんて、考えていると、


『いってらっしゃい。今日まで死ぬ気で頑張ってきたんだから自分を信じて。凜なら大丈夫だよ』


伊吹がいつものようにわたしの頭をそっと撫でてくれる。

緊張や不安で押しつぶされそうなわたしを安心させるかのような優しい笑顔と仕草に少し心が落ち着いて緊張がほぐれた。

伊吹の言う通り、今日の日のために二人で一生懸命、勉強してもう頭に入りきらないくらいの公式や単語を詰め込んできたんだ。

今日まで心が折れそうになってもその度に伊吹が『凜は十分頑張ってるよ。偉いね』とか『正答率が格段に上がっててすごい!』とかたくさん褒めてくれたり、慰めてくれてわたしに踏み出す勇気をくれた。

まあ、今思い返せばさすがは幼馴染って感じでわたしがやる気を出す方法とかは全て見抜かれていたような気がするけれど。

ただ、最後は伊吹の手を借りずに自分を信じて合格を掴み取るしかない。

わたしが合格したらきっと伊吹は喜んでくれるだろうな。

その笑顔を想像するとなんだかパワーが湧いてきて弱々しい気持ちが飛んでいく。


『ありがとう。パワーが湧いてきた!じゃあ、またあとで』


二人で神社に行って選んだお守りをぎゅっと握りしめて会場へと急いだ。





『はあ、やっと終わった』


そう言いながら、部屋に入ると、カバンを適当に床に置いて中学の時に買ってもらったベッドにボフッと倒れこんだ。

大学受験を終えてやっとの思いで家に帰ってきた。

出ていくときは顔を真っ青にしてお守りを握りしめていたくせに終わった途端、全身の力が抜けて脱力感に駆られる。

なんせ、人生のかかった受験が終わったのだから今日くらいはダラダラと過ごさせてほしい。


『どうだった?受かってそう?』


わたしが枕に顔を埋めていると、そんな少し弾んだ声が耳に届き、振り返る。

声の主がわたしが寝転んでいるベッドの端にゆっくりと腰を掛けるが、ベッドが軋む音などは聞こえない。

あまりにも一緒にいすぎて彼が幽霊だということをたまに忘れてしまいそうになるけれど、そういう日常の些細なことで彼はもう存在していないのだということを実感させられて嫌でも思い知らされる。


『んー、結構解けたし、自分ではできた方だと思うけど……受かってると信じたい。あとはもう神頼みするしかないよ』


あんなに頑張ったんだから受かってないと頭がおかしくなりそうだ。

でも、頑張ったのはわたしだけじゃなく世の中の受験生はみんな頑張っているのだから誰が合格してもおかしくないんだよなぁ。