当たり前にそこにいた人が突然いなくなるなんて思ってもいなかったし。

でも……


『何年一緒にいると思ってるの?今更、幽霊になったからって何も変わらないよ。まあ、わたしを残して死んじゃった罪は重いけどね』


そう言いながら彼の回しているシャーペンを奪い取って、同じようにくるくると回す。


『おー、その罪が一番怖いかも。あっ、あと凜の変わってないところもう一つあった』


閃いたようにポンと手を叩いてニコニコとあどけない笑顔を見せる。


『え、なに?』

『……俺の前では泣き虫なところ』


耳元でボソッと囁かれた言葉に恥ずかしさが込み上げてきて、ぶわぁっと顔に熱が集まってくる。


『な、泣き虫なんかじゃないし!』

『そう?昔は服に虫がついただけでわんわん泣いてたよ』

『そんなの忘れてよ!』


怒っているわたしを見ながらクスクスと肩を揺らして笑っている。

そんな恥ずかしい事ばっかり覚えてなくていいのに。


『俺にとっては全部特別な思い出だから忘れてあげないよ』


わたしの目をじっと見つめ、にいっと悪戯っぽい笑みを浮かべた彼。

その笑顔と“特別”という言葉に不覚にもドクンと鼓動が高鳴った。

わたしだって、伊吹との思い出はどんなに最悪な事でも特別だと思っている。

伊吹にわたしの小さな頃の記憶や思い出があるようにわたしにだってあるんだからね。


『わたしも伊吹が小学校六年の時に心霊番組みて夜中にトイレいけなくてわたしにトイレの前まで着いてきてって言ったの忘れてあげないからね』

『お、おまっ……!それは絶対に忘れろ!』

『やだね~~』


焦ったように表情を変えて、恥ずかしそうにしている。

それを見てわたしは先程の伊吹のようにクスクスと肩を揺らして笑う。



―――こんな時間がいつまでも続けばいいのに。