『……わたし、決めた。進学するよ。いつかの自分が後悔しないように好きに生きられるように頑張る』
力強く言ったわたしに彼は涙目でたえず潤っている目を優しく細めて『凛ならできるよ』と微笑んだ。
伊吹の分まで、ちゃんと生きる。
君が、いつか安心してわたしの元からいなくなれるように。
そう。わたしはこの時、大学受験を決めただけでなく、ある事も決意したのだ。
それは……この世で一番大切で一番大好きな君を成仏させることである。
彼が幽霊になった理由も成仏する方法もわたしは知らない。
だけど、きっと何か方法があるはずだ。
もちろん……すぐに、というわけじゃない。
ちゃんとタイムリミットもわたしの中で決めた。
その日までに心の中を整理して、いつか来る君とのさよならを準備しておくから。
だから、まだあと少しだけ隣でわたしのこと見守っていてね。
◇
その翌日からわたしは伊吹と二人で大学受験に向けての勉強を開始した。
伊吹は元々賢かったこともあり、幽霊として授業を聞いて内容を理解し、それをわたしに教えてくれた。
そのおかげもあり、白紙だった進路調査票には第三希望まで大学名で埋められた。
『はーっ!もう頭に入らない!』
机に散らばったらテキストの上にへたり、と顔を伏せる。
こんなにも勉強に真剣に向き合ったことなんて今まで一度もなかった。
勉強って、こんなに体力と根気がいるもんなの?
これをあと一年も続けるなんてもう既に心が折れそうだ。
『はは、まあ結構進んだもんな』
教科書をペラペラと適当に捲りながら小さく笑った。
『甘いものが食べたい』
頭を使ったら糖分を摂取しないとダメだし。
そばにあったチョコレートに手を伸ばす。
『こんな時間に食べたら太るんじゃない?』
『あ、それ女の子に禁句の言葉だよ』
『凜は例え丸くなっても可愛いから安心しな』
そう言いながら先にチョコレートを取って渡してくれる。
『可愛いなんて言葉に騙されないんだから』
キュンと甘く高鳴った鼓動を隠すようにぷーと口を膨らませてチョコレートを袋の上から半分に割り、半分は自分の口の中に、もう半分は袋に入れたまま伊吹の前に置いた。
『俺、食べれないよ』
平然と告げる彼にわたしはコクリ、と首を縦に振った。
幽霊の彼は食事などしなくても死なないし、そもそも食べ物や飲み物を摂取することはできない。