『なあ、凜』


彼の澄んだ瞳が真っ直ぐにわたしを捉える。


『ん?』

『知ってる通り、俺にはもう未来はない。俺の時間は一年前のあの日に止まったまま一生動くことも明日を迎えることもない。だけど、凜は違う。生きてる、明日だってやってくる』

『……』


これまで語られることのなかった彼の悲痛の叫びがわたしの胸を痛いほど締め付ける。

なんでわたしはこれだけ彼の近くで一緒に過ごしてきたのに今まで気づけなかったのだろう。

わずか15歳という若さでこの世を去った彼に未練がないわけがない。

もっと、やりたいこともあっただろう。
もっと、見たい景色もあっただろう。
もっと、大切な人たちに囲まれて生きていきたかっただろう。
もっと、長く生きて自分だけの人生を歩んでいきたかっただろう。

だけど、彼は死んでしまった。
どれだけ悔しくても、信じられなくても、自分の死を受け入れるしか道が残されていなかったんだ。

伊吹はわたしと一緒に学校に行って辛くはなかったのかな?

二度と動くはずのない自分の時間に打ちひしがれたことはなかったのかな?

学校に行けばクラスメイトのみんなは身長が伸びたり、成長していく中で彼だけはずっと同じ容姿で、髪も、身長だってもう伸びることはないという現実を前に何度一人で傷ついたのだろうか。

きっと、わたしでは想像もできないほど、苦しんだと思うし、今もまだ彼は苦しみの中でもがいているのかもしれない。

それなのにわたしはこの一年、彼の苦しみや悲しみに寄り添ってあげられなかった。

……自分のことばかりで全然伊吹のことを考えてあげられていなかった。


『凜には無限に広がる未来がある。今はまだ何がしたいのかわからなくたっていい。でも、その未来への可能性を捨てないでほしい……っ。これから凜は何にだってなれるんだよ』


わたしを見るその目は真剣そのもので、ひどく感傷的になって今にも泣き出しそうな顔をしてる。

それが、未来のことを考えてもあれこれと後ろ向きになって怖気づいていたわたしの心をひどく揺さぶったのだ。

だって、彼が幽霊になってわたしの前に現れてから一度もこんな弱々しい姿なんて見たことがなかったから。

優しい彼のことだからわたしの前では気丈に振舞ってくれていたのかもしれない。
わたしはそんな優しさに昔からずっと甘えていたのだ。

このままではいけない、と心の中のわたしが言う。

わたし、変わらなきゃ。


―――何にだってなれる、か。


彼の言葉はいつだって勇気をくれる。
まるで魔法にかけられたように力が湧いてくるから不思議だ。

好きな人のパワーってやつなのかな。

今だって、先程まで真っ暗だった未来への道に少し一筋の光が差し込んだ気がするくらいだ。