幼い頃は簡単に想像出来たのに大人になるにつれてどんどん視界が黒くなり、いつかの自分さえ見失ってしまった。

だから進路を考えろと言われてもあんまりピンとこない。

就職したとしてもその仕事は長続きするのか、わたしに合っているのか。

進学しても就職先は見つかるのか、果たしてなりたいものになれるのか。

いつもいつも不安が纏わりついてきて、怖い。

わたしはいつだってそうだ。
後先を考えてしまうから、怖気づいて最初の一歩が踏み出せず、声にすらできない。

いくら悩んでも一人じゃ解決することなんてできないのに。


『あのなぁ、今くらいから進学か就職かくらい決めとかないと大学受験に間に合わないだろ』


はあ、と呆れたようにため息をこぼした。

伊吹はそういうところはしっかり考えているタイプだったので、わたしのような甘い考えがありえないのだろう。

わたしはそんなに上手く生きれないんだよ。


『……じゃあ、伊吹だったらどうしてた?』


進路調査票と書かれた紙をじっと見つめながらぽつりと尋ねた。

もし、もしも伊吹が幽霊なんかじゃなく今という時間を生きれていたのなら彼はどんな未来を選んだのだろうか。

彼は顎に手を当てて、少し考えてからゆっくりと口を開いた。


『俺は進学してたかな。将来の夢とかこれといったものはなかったけど、いつかの自分のために選択肢は広い方がいいかなって思ってたから』


窓の外に視線をやり、どこか遠くを見つめながら言う。その表情には諦めの色が浮んでおり、切なげに瞳を揺らし、やるせない笑顔をわたしに向けた。

そんな彼の表情を見て、酷なことを聞いてしまったかもしれない、と今更ながらに思ったけれど、もう遅い。


『……そっか』


物事の先を考えて生きていた彼らしいな、と思った。

だけど、同時にそれはもう叶うことはないのだなとも思い、自分から聞いたくせに居心地が悪くなって、素っ気ない返事しか言葉にできなかった。

将来のことを聞いても彼はもう死んでいるから、彼に未来など訪れない。

彼が今生きていたらどれだけ希望に満ちた未来が待っていただろうか。

神様という人は本当に残酷な人だ。
こんなにも優しい人の人生をあっけなく終わらせてしまうのだから。

心優しい人や優秀な人ほど早く神様が連れて行ってしまう、というのはあながち間違ってはいないのかもしれない。