「実は私、彼氏がいまして」

 意を決して始まった告白にドキッとした。分かっていても改めて聞くと身構えた。

「中学の時に家庭教師だった人なんだけど」

 二年前まで家庭教師をしていたとなれば、あの男の年ともだいたい一致する。

 点と点が繋がり始めていた。懐かしそうに恋人との馴れ初め話をし始め、ただただ黙って耳を傾ける。聞けば聞くほど、相手の男が星野先生にしか思えなくなった。

「これね、去年の誕生日に彼からもらったの」

 嬉しそうに見せてきた腕には、細いシルバーのブレスレットが光っている。小さな三日月のチャームが下がっていた。

「それ、いつもつけてるよな」
「私のおまもりだから」

 彼女の顔が綻ぶのを見て、心底相手を想っているのが伝わってくる。

「でも最近全然上手くいってないんだ」

 しかし次第に表情が曇り始める。終いには、迷惑だったのかな、とぼそぼそ独り言を言い始めた。

「二年間離れ離れになるって分かったら寂しいものじゃない?」

 口を尖らせ訴えるような目を向けてくる。

 なにか言いたげに見えたから聞くとは言ったものの、実際意見を求められるとどんな言葉をかけていいか分からなかった。