「凄い! 一回のぼってみたかったんだ」
桜井月が行きたい場所とは、島の最南端に位置する岬の灯台だった。長く続く真っ白な螺旋階段をのぼっていく途中、先程までいたレストランの屋根が見えた。
彼女は頂上に辿り着くと手すりに寄りかかり、遠い水平線を見つめる。その後ろで塔の壁に背中を預けながら同じ景色を見た。
「海くんって付き合ってる人いる?」
あまりにも唐突だった。
「いないけど」
「嘘だあ。地元でかわいい彼女が待ってますって顔してるのに」
なぜか彼女の言葉は上の空だ。背中を向けたまま振り向きもせず、わざわざこんなところに連れてきたのにはなにか理由があるのだろう。
「なんか聞いてほしいなら聞くけど」
「え」
「だからここ来たんじゃないの?」
やっと顔を見せた。
ただその手の話を匂わせたかっただけで、きっと俺に恋人がいるかなど、さして興味はなかったはずだ。
案の定、図星だったのかしゃがみ込む彼女は言い出しづらそうに口ごもる。俺は視線を合わせるように地面にあぐらをかいた。