美女と猛獣。誰もが知るアニメ映画で、煌びやかなホールの真ん中で手を取り合って踊っている有名なシーンが頭に浮かぶ。

 舞踏会とは踊る場のこと。衣装の雰囲気に引っ張られすっかり忘れていたが、踊るとなると話が変わってきた。

「どうせみんな踊りたがらないんだから、豪華な食事と音楽があれば十分でしょ」
「仮面してただの食事会? 盛り上がるかな」

 頬杖をついて答える桐島を前に、桜井月は眉間にしわをよせて机に突っ伏す。ニョロニョロと線を書きながら、なにかないかと唸っていた。

「でも想像してみて。相手が誰だかわからないなんて面白くない?」

 すると両手で目元を覆い隠した桐島が、仮面を模しているのか大きな瞳が見えるようにパッと指を開いてみせた。

「二〇〇分の一の確率で出会うのは、普段だったら話す気もなかった初対面の相手か。仮面をしていても引き合ってしまう運命の相手か」

 今日の桐島は珍しく饒舌だ。桜井月はあからさまに目を輝かせ、なんと単純なのだろう。

「なんか、そう言われるとロマンチック!」

 女子の感覚がまるで分からなくて、なにひとつ共感できずにいる。

「もうカップルになってる子たちはお揃いの目印なんかつけてもいいね。女の子は宝探しみたいに彼に見つけてもらうの」

 ノートのイラストは話しながらどんどん華やかになっていき、胸元に小さな羽を描き足した。