でもそれが悲劇を生んだ。
大会当日、緊張感漂う中で鳴るピストルの音を聞いて飛びこんだものの、違和感を覚えていた。とにかく無我夢中で当たり前のように首位をキープしていたはずだったのに、どこか体がおかしい。入水したときの感覚がどこか違った。
二〇〇メートル最後の折り返し地点、急に息が苦しくなり思うように呼吸ができなくなった。そのまま沈んでいくのが分かり、遠のく意識の中で青い空に色づくフラッグが水面に揺れていた。
慌てた大人たちに抱きかかえられたのはその直後のことだ。
目が覚めたのは病院のベッドだった。
医者からは過度な練習のせいか、肺の機能が低下していると診断された。生活に支障はない。しかし水泳のような肺活量を使う種目でオリンピックを目指すのは厳しいだろうと告げられる。
昨日までなんの問題もなかった。さっきまで水と一体化しトップを泳いでいた。それなのに目の前の医者はいとも簡単に俺の夢を断とうとしてくる。
そして現実も残酷だった。
退院して迷わずプールへと向かい、コーチが引き止めるのも無視して入水した。その瞬間、圧迫されるような感覚に襲われる。確実に今までとなにかが違った。
今でも忘れていない。
恐怖で泳ぎ出すこともできず、これ以上前に進む勇気もなかった。