「美しく成長していく娘を見て心配した夫婦は、誰の目にも触れさせたくないと彼女を森の中に隠した。それがこの島で立ち入り禁止区域になっている南西の森」
ふとマリアの言葉を思い出す。
島に来て最初の日、まず注意されたのが『南西の森には決して入らないこと』だった。
「でも資産家の家が強盗に襲われて、夫婦も使用人も全員が殺されてしまった。それ以来、娘は誰にも見つけてもらえず一生を森の中で送ることになったわ」
唾を飲み込む音が聞こえそうなほど、みんな前のめりになって話に耳を傾けていた。
表情ひとつ変えずに語る桐島は異様なムードを漂わせ、より一層おどろおどろしくさせる。
「食べるものもなく、孤独のまま死んでいった少女の霊が今も南西の森に棲みついてるとか、いないとか」
その瞬間、近くに置いていたキャンドルの火が意味ありげにふっと消えた。
マリアの口から理由は語られなかったが、冗談でも面白がって行かないよう十分釘を刺された。あの時の真剣な表情をよく覚えている。