「海くん……」

 どんな顔をして戻ればいいか分からずにいたら、桜井月が服の袖をぎゅっとつまんできた。

 でも、俺はそんな彼女にただ首を横に振ることしかできない。桐島がずっと露出を避けてこだわってきた意味がようやく腑に落ちた。

 しかし、本当に誰にも言わなくていいものかなのか。沈黙を貫いてしまっていいものなのか。俺には分からなかった。

「遅いぞ、ふたりとも。さっきの続きしよ」

 明るい熊の声とは対照的に、なんとなく三人の間には気まずい空気が流れる。向かいに座っていた桐島と目が合い、俺はゆっくり目を逸らしてしまった。

 アロマキャンドルの匂いにもだんだんと慣れてきた。

 結局マリアからの連絡はこないまま。卓上コンロを引っ張り出し、林太郎が作ったすき焼き鍋を囲んでちょうど食べ終えたところだ。

「なんかできそうなのあったかな」

 熊は自分の部屋から持ってきたゲーム機の入ったダンボールを机にどんと乗せた。

「できるって言っても結局トランプくらいじゃない?」

 電気が通っていなければテレビゲームもできず、桜井月は散々やったトランプを手に取った。