「どうしかした……」
すぐに桜井月も顔を覗かせたが言葉を失う。
俺は慌てて扉を閉めた。
「悪い」
「ううん、こっちに変な虫がいて」
扉越しに震える声がした。
薄暗さに目が慣れ、隣で不安げに立ち尽くしていた桜井月と目があった。
しばらくして懐中電灯を持って出てきた桐島は、しっかりとパーカーまで羽織って、俯いたままリビングに向かった。
後ろを歩きながら、目に焼きついて離れない先ほどの光景を思い出す。
真っ白な肌に刻まれた無数の傷跡。痛々しく残った煙草の跡や青あざが至る所に広がっていた。
「誰にも言わないで」
桐島はリビングに入る直前、念をおすようにぼそっと言った。
「本当ごめんなさい!」
「うん、本当最悪」
先をいった桐島が、謝る熊に冷たく言い放つ声が聞こえてくる。