甘ったるい香りが鼻をつんと突き刺した。

 だんだんと匂いは充満する。ソファに座る桜井月もぴくぴくと顔を引きつらせている。

 次第にみんなが顔を歪め始め、それぞれが一気に近くの窓へ飛びついた。

 窓を開け外の空気を吸いこむ。ちょうど同じ窓に飛びついていた桜井月と目を見合わせ、お互いの滑稽な姿に笑いが込み上げてきた。

「なにやってんだよ」

 後ろからお腹を抱えて笑い出す熊の声が聞こえてきたのを皮切りに、つられて笑いが伝染した。

「桐島まで、ハハハハッ」

 なによりおかしかったのは、今までずっと冷静だった彼女が必死になって窓に首を突っ込んでいたからだ。

 耳を赤くしながら恥ずかしそうに窓の桟にしがみつく姿を見て、全員が笑った。

 そのうち桐島も肩を小刻みに震わして、笑いを堪えているように見えた。

「もう最悪」

 結局すぐに電気は戻らずアロマキャンドルの灯りだけで過ごしていた結果、桐島が被害を受けた。ごめんなさい、と謝ってしゅんとする熊が、飲みかけのジュースを倒して桐島の服を濡らしていた。