「どうしたんだろう」
バス停の辺りがなにやら騒がしくなっている。
先生たちが慌てた様子でうろうろしていて、周りにいる生徒たちも落ち着かない様子だ。きょろきょろ見渡す桜井月は、ベンチに座っている桐島の姿を見つけて近づいていった。
「なんかあったの?」
屋根の下で本を広げる彼女は、一度顔を上げて相手を確認するなりすぐに視線を手元に戻す。俺たちは無駄だと言わんばかりに目を見合わせ、他をあたろうとした。
「通れないんだって」
すると、少し迷いながら本を閉じた桐島の声がした。
「え?」
「さっきの台風で木が倒れて道が寸断されたって。うちは一番奥だからしばらく帰れないみたいよ」
目をぱちくりとさせ驚く桜井月の前で、淡々と話す彼女は至って冷静だ。騒いでも仕方ないと言わんばかりにまた本を読み出した。
周りはみんな不安げで、どうしようと口々に言っている。一応これが正常な反応のはずだ。
帰路を歩きながら、前には桐島の腕を引く桜井月の姿がある。
「どうして私まで」
「どうせ帰れないんだから、ね?」
倒木の影響で道が通れるようになるまでは相当な時間がかかると分かり、復旧するまで歩いて数分で着く俺たちの家で待つことを提案した。
桜井月は嬉しそうに賛成したものの、半強制的に連れてこられた桐島はとても足取りが重そうだ。