「じゃあ海くんは?」
急に話をふられたが、なにひとつ耳に入ってきていなかった。楽しそうに振り返ったふたりと目が合い、あー、と視線を泳がせる。
「もう。こっちはずっと夏だからどの季節が続いたら嬉しい? って話してたの!」
死ぬほどどうでも良かった。バカップルの会話かと思うほど顔がひきつる。
「なんでもいいわ」
「はい、一番つまんない答え」
拍子抜けするような話題をあしらうと、食い気味に反応してきた熊のセリフにイラッとした。こっちは誰にも言えない秘密を抱えているというのに、今すぐバラしてやりたくなった。
「イデッ、なんだよ」
やりどころのない苛立ちを熊のすねにぶつけた。
そのうち会議を終えた先生たちが戻ってきて通常通りの授業が始まった。
帰宅できると踏んでいた面々からは残念がる声が飛ぶ。無理に帰って台風のピーク時に外へ出ている方が危険だろうという判断から、結局過ぎ去るまでは校舎の中に軟禁されることになった。
「ちぇっ、帰れると思ったのになあ」
放課後を迎えた。
直撃は免れたものの、島に相当な被害をもたらした台風は昼間のうちに過ぎていった。
まだ雨が地面に残る中、口を尖らせて歩く熊とバス停に向かう。いつの間にか桜井月を見送ってから帰宅するというルーティーンが出来上がっており、今日も誰が言うわけでもなく自然と足向く先は同じだった。