蛍光の黄色いラインが入った黒い靴。凄くどこかで見た覚えがあった。
「海?」
林太郎の声も半分に聞き流し、ただただ靴だけを見つめた。思い出そうと頬杖をつき、指で一定間隔のリズムを刻む。その辺まで出かかっていたから余計にもやもやした。
「でもキャンプの時がこんな雨じゃなくて良かったよなあ」
きっかけは不意に訪れる。
何気なく言った熊の言葉が引き金となり、動かしていた指が急に止まった。
打ち付ける雨音だけがやけに大きく聞こえてきて、周りの声が一瞬にして消えた。
思い出した。あの時は別の衝撃が大きすぎてすっかり相手の服装を目に入れる余裕がなかった。でも去り際に見えた蛍光のラインが記憶にこびりついている。
キャンプで、桜井月と密会していた男が履いていた靴と同じだった。
別の生徒が似たものを履いているという可能性も考えられなくはない。
しかし恋人らしき人物と一緒にいないのも、人気ひとけのない場所を選んで会っていたのも、相手が星野先生だとすれば説明がついてしまう。
点と点が一本の線になって繋がってしまった気がした。
「どうした、お前顔真っ青だぞ」
「なんでもない……」
林太郎と目が合い平静を装ったが、内心動揺せずにはいられなかった。
昼休みが終わり、次の授業は桜井月と同じコマをとっていた。
自習と書かれたホワイトボードを前に各々好きなことを始め、前の席は雑談で盛り上がっている。熊と並んで座る桜井月の背中を見ながら、どうしようもなく星野先生の顔がチラついた。