「本日深夜に通過すると予報されている台風十号は、急速に勢力をあげて島の南東から接近する模様です。学校内にいる生徒たちは下校時間に十分注意してください」

 朝一番、始業前から何度も流れている校内アナウンス。

 今までにも台風接近の放送が入ったことはあったけれど、これほど繰り返し注意喚起されたのは初めてだった。

 不安を煽るアナウンスはそれほどの危険が迫っていることを予測させた。

「前回みたいに結局進路それましたってなるんじゃないのかな」

 教科書を広げながら半身後ろを向いて話す熊は、ガタガタと風に揺れる窓ガラスの外を見つめていた。

 教室の扉が開いて数学教師が入ってくる。半濁音の破裂音が異常に強く、喋り方に癖があるとみんなが陰で噂する人物だ。

「授業始めます。今日は教育実習できている星野先生にも参加いただきますのでよろしく」

 今日は珍しくスーツ姿の若い男性教師が一緒に入ってきて、緊張気味に立っている。

「星野誠です。みなさん宜しくお願いします」

 無駄に爽やかな見た目をしていて、どちらかと言えばベビーフェイス。表には出していないが、きっと自分はかっこいいと思っているタイプだ。

 キャンプの時から若い大人が何人か紛れていたのを覚えていて、教育実習生が参加しているとも聞いていた。その中でも無駄に爽やかな笑顔で、少し鼻につくやつがいると思っていたのが星野先生だった。

 今も手を挙げて質問する女子生徒のそばでしゃがみ込み熱心に教えている。