「俺できるけど」

 林太郎がふらっといなくなったかと思えば、シンクで手を洗いながら真顔で言う。

「できるって?」
「魚さばくんだろ。地元の先輩が板前になってちょっと教わったことあるから」

 熊とふたりであんぐり口が開いた。

 林太郎は慣れた手つきで魚に包丁を入れはじめ、あっという間にさばいてしまう。まさかの救世主に驚きつつ、意外となんでもできることを知り素直に感動していた。

「お前すぐ店だせるよ」

 アジとクロダイのカルパッチョ。ヒラメのアクアパッツァ。

 意外にも料理の才能を見せる林太郎の指示に従ったら、イタリアンレストランのディナーテーブルが出来上がった。

「Oh, My god.」

 匂いに導かれ、他のルームメイトふたりと現れたマリアは両手で口元を押さえた。

「信じられない、明日から毎日作ってちょうだい」
「サボろうとするなよ」

 林太郎はキッチンからすかさず鋭いツッコミを入れる。

 笑いあう休日はマリアの怪我によって、いつも以上に家の中を明るくした。