「まさか最後の最後でここまで釣れるとはな」

 家に戻った俺たちはクーラーボックスを覗き込み、顔を突き合わせた。

 あのあとラッシュがきて、なん匹かのアジとクロダイ、ヒラメまで釣れてしまい、自分たちでも驚きの結果になった。

「どうするか」

 活きのいい魚たちを前にして、熊が一歩下がる。薄々嫌な予感はしていたけれど、顔を見てより不安に駆られた。

「任せろって言ったからにはさばけるんだよな」
「俺が?」

 一瞬、空気が固まる。すっとぼけたような顔をしたかと思えば、目を丸くしてぶんぶんと首を横に降った。

「いやいやいや無理でしょ。海が出来んじゃないの? 実家料理屋じゃん」
「俺関係ないし」

 うちは早くに父親が死んでから、女手ひとつで育ててくれた母親が小料理屋をやっていた。

 忙しくて手伝っていた時期もあったが、料理を運んだりする程度で包丁なんて握らしてもらった記憶はない。

 なにせ水泳一本の人生だった。

「これは想定外だわ」

 自分で言っておきながら最終的には人任せのプラン。熊らしいと言えば、らしかった。