「そういやさ、結局アヤちゃんからのメッセージは無視したまんま?」
不意に熊が起き上がり思い出したように言う。
【会いたい】
最後に既読のまま残してきたメッセージが頭をよぎった。
高校に入学してから告白されてなんとなく付き合ったものの、ほとんど会う時間もなく三ヶ月ほどで別れた。
恋人としてカウントしていいかもわからない相手。復縁を迫る連絡が何度もあったが、もはや今となっては顔もはっきり思い出せない。
一瞬そんな名前だったかと考えさせられるほどだった。
「海ってさ、人に興味ないっていうか。名前とか覚える気ないよな」
「別にいいだろ。てか、学校違うのになんで知ってんだよ」
反応が薄いのを見透かされてか半笑いで見られ、ムキになって言い返していた。
「え、だって一回会ったじゃん。去年の夏、お前が新人戦に出るって言うから応援行ったとき……」
当たり前のように話し出した途端、言葉を詰まらせる熊と目があった。
その瞬間、頭の中でフラッシュバックするように記憶が駆け巡った。
風に乗って流れる雲。
視界の中を通り過ぎていくカラフルなフラッグ。
エコーがかかったように聞こえてくる声援の声。
ツンと鼻を突き刺す感覚やぼんやりとする鼓膜。
冷たい水の中でマグマのように火照りだす体。
あらゆる感覚が奥底からぞわっと毛が逆立つようにこみ上げてきた。