「双子ってやっぱり顔とか似てんの?」
「いや、うちは二卵性だから全然違う。それに弟は俺と違って優等生」
興味を示す熊に、どこか棘のある言葉で返したのが少し引っかかった。
「じゃあ弟は黒髪で真面目な眼鏡くん?」
察しの悪い能天気な熊の横で、どこか複雑な表情を浮かべているのが見えた。
「熊、引いてる」
タイミング良く足元で竿が動いた。
「え?」
「釣り竿、引いてる」
話に夢中になって、釣りをしてきたことを忘れていそうな勢いだ。
一瞬ぽかんとしたかと思えば、目の前でぐいぐいと動いている竿を見て慌てて我に返った。
「え、どうすんのこれ。海? 林太郎?」
立ち上がり、慌てふためく熊が釣り竿を手に助けを求めてくるが、俺たちは体勢を変えずに動かなかった。
「色々あるだろ、誰にだって」
なんとなく林太郎の心に傷が見えた気がして、誰に言うわけでもなく、空に向かって囁いた。
「ああ」
しばらくして小さく聞こえた声は騒ぐ熊の声ですぐにかき消された。