「にしても釣れねえなあ」
ぼやく林太郎はコンクリートの地面に寝転がり、空を見上げた。
「林太郎って兄弟いる?」
「ん?」
「そういえば聞いたことなかったなあって」
熊があまりの暇さに唐突な質問を投げかける。
あぐらをかいた膝に頬杖をつきながら寝かかっていた俺は、隣で始まった話になんとなく耳を傾けていた。
「ちなみに俺は兄貴がふたり。海は小学生のかわいい妹がいんだよな」
勝手に紹介する熊に「かわいいか?」と首を傾ける。
「あいつもう中学生だけど」
「まじ? あ、これがさ、海に超そっくりで生意気なの」
「似てねえし」
俺は腕を大きく広げ、林太郎と同じく寝転んだ。視界を埋める空は雲ひとつなく澄み切った青色をしていた。
「弟がひとり」
林太郎が空に向かってぽつりと言った。
「双子だから年は一緒だけど」
勝手に年の離れた兄貴がいるようなイメージだったから、少し意外だと思った。
思い返せば、島に来てから家族の話なんて一度もしたことがなかった。みんな非現実的な世界にでも飛び込んだかのように、不思議と過去の話をする人は少なかった。