「私を助けたからあんたたちも死ぬのよ」

 風の音に呼応するように桐島の声が次第に強くなっていった。

「誰も助けてなんて頼んでないのに!」

 俺は本音を吐き出す彼女になにも言うことができなかった。過去になにがあったかは分からないが、人生のどん底を味わった気持ちは痛いほど分かる。

 夢を失ったあの時の俺とよく似た目をしていた。

 なんの事情も知らない俺が言うその場しのぎな慰めの言葉なんて、彼女にとっては無意味だと自分が一番よくわかっていた。

 だから、黙っているべきだと思った。

「話し出すと止まらないタイプなんだね」

 しかし桜井月は違った。

「桐島さんってクールなだけだと思ってたけど、意外と人見知りしてただけ?」
「え」
「どんどん本音で話してくれて私は嬉しいよ」

 桐島はぽかんと口が開いたまま固まった。

 きっとこの状況で、嬉しいなんてポジティブなワードが出てくるとは誰も予想しなかったはずだ。でも桜井月は構わず近づいていき、にっこり微笑んだ。

「もっと桐島さんの本音聞かせてよ。私たち友達なんだから」

 冷たくなった桐島の手を取り、洞穴の中に引き寄せる。俺も慌てて引っ張るのに手を貸した。

「なに言ってんのよ」

 引き上げられた彼女は戸惑った様子でひとり壁の方へ向いてしまったけれど、俺には照れているようにしか見えなかった。

 だんだんと風の音がおさまってくる。波も穏やかになり始め、外を見ると太陽を隠していた雲も晴れ間を見せる。

 そのうち、船のエンジン音がこちらに向かって近づいてきた。