洞穴に入り、ひとまず逃げ込む場所を見つけた。
天井から一定の感覚をあけて水が滴り落ち、ガスボンベを下ろした瞬間金属製の音が反響する。
「まだ足つってんの?」
桐島の前にしゃがみ込んで声をかけるが、相変わらず言葉を発さず強がって平気なフリをしている。
「どこ? 見してみ」
足に触ると痛そうに顔をゆがめてキッと睨みつけられた。警戒心剥き出しの猫かと突っ込みたくなる。
面倒くささを覚えながら、そっと足に触れて表情を伺う。
「力抜いて、そう」
足ヒレを取り、よく水泳のコーチからやってもらっていたストレッチを思い出す。ゆっくり彼女の足を動かした。桐島はまた一瞬顔を歪めたが、すぐに強張っていた体から力が抜けていくのが分かった。
彼女はありがとうの一言もなしに、すかさず膝を抱えて縮こまる。
扱いづらさに大きなため息をついて、俺はごつごつとした岩壁に背中を預けた。
「助けに来てくれるよね」
波打ち際で突出する岩だらけの光景を目の当たりにし、桜井月は腕をさすりながら不安げに言う。つられて外を見たまま深く息を吐いた。
「果たして見つけてくれるか」
「どうして?」
「岩が邪魔して船はここまで入ってこれない。岸の方からはちょうど死角だろう」
ゴーゴーと風の音は大きくなり、見るからに暴風警報でも出そうな勢いだ。
水位が上昇してきて、洞穴の面積も少しずつ狭くなっていく。