「扉にそれぞれ名前のプレートを下げておいたから、まずは自分の部屋を確認して。細かい説明はそのあとね」

 汐江(しおえ)、と自分の名前が書かれたプレートは一番奥の扉にかけられていた。

 部屋の中には事前に送っておいた段ボールがいくつも置かれ、必要最低限の家具が揃えられている。

 リビングやバスルームは共同だが、壁には【私物は持ち込む勿れ】と筆で書かれた独特な文字の貼り紙があった。

 それなのに個性的なハニワが家中に何体も並べられているのは、マリアの趣味だろう。

 共同スペースというよりかマリアの領域を使わせてもらっている。そんな感覚に陥ったとは誰も口にできなかった。


「うはぁ、なんもしてないのに疲れたなあ」

 夕食を食べ終えたあと、自室には戻らずちょうど対角線上にある熊の部屋に入った。

 両腕を広げてベッドに背面ダイブする熊の様子を見下ろしながら、俺は回転式の椅子に深く腰掛け足を投げ出した。

「なあ海、俺らここでやっていけるかな」

 天を仰ぎながら早速不安げな声を出す。そんな熊は珍しかった。

「まだ初日だろ」
「そうだけどさ、島での生活なんて初めてだし」
「みんなそうだろ。てか、どうしても行きたいから一緒に来てくれって言ってきたのお前だし」
「いや、それはさあ! だって……」

 ごにょごにょと口籠る熊をよそに、開けっぱなしになったダンボールに入っていた野球ボールを手に取った。