「ちょっとあっちの方、雲行き怪しいわね」
いつの間にか近づいてきていた佐伯先生がぽつりと呟いた。
「汐江くん。余裕なのはわかったけど、頼むからそこの黄色いロープだけは越えないでね」
すぐ後ろに張られていたロープの存在を知り、ぐるりと一回転して境界線を確かめる。
まっすぐに顔を立てたとき初めて船から少し遠ざかっていたことに気がついた。
忠告だけしていなくなった先生のあとを追うように、マウスピースを咥えて潜っていく。
少し水深が深くなっていて広く周りが見渡せた。
「撤収します! みんな岸に戻って」
水面に浮上すると拡声器を通した佐伯先生の声が響いていた。
戻っていく生徒たちに続いて岸に向かおうとしたとき、なんとなく桐島の姿を探した。