「マウスピース咥えたら、まず息を吐くんだよな」

 ぶつぶつ唱えている熊を見ていると、こっちが心配になってくる。

 とはいえ今日は浅瀬での練習だ。近くには掴まれるような大きい岩場があるし、少し泳げばすぐそこに岸もある。どこかそんな余裕を持っていた。

 笛の合図で一斉にみんなが動き出す。

 まだ顔をつける練習だと言われていたが、少しだけ潜れるような気がして沈んでみた。

 不思議と昔の感覚が蘇ってきて、とても気持ちがいい。しばらく潜っていたら、先生たちが船から降りてきて指導が始まっていた。

 俺はひとり空を見上げながら自由気ままに身を任せる。雲の流れがだんだんと速まっていくのを感じ、自分の世界に浸っていた。

 ふと目の端に誰かが見えた気がした。休憩でもしているのか、大きな岩にしがみついていたけれど、気にも留めずもう一度視線を空に戻した。

 先ほどより雲の動きが速くなっている。波の揺られ方も少し大きくなり始めた。