さっきから話していることは訳がわからないのに、本人はいたって真面目な顔をしている。
「何の話だよ」
「絶対正夢になる……」
頭を抱える熊を前に呆れて朝食を食べ始めると、後ろでマリアが大笑いし始める。振り返ればお腹を抱えて涙を浮かべていた。
「いやあ、毎日そんな夢を見てくれるとこっちは楽で助かるんだけどねえ」
いつも半目で起きてくる熊が今日はばっちりと目を覚ましていて、俺たちは珍しく余裕をもって登校した。
「あはははは、おっかしい」
授業前に岸辺で佐伯先生を見つけた途端、熊は悪夢の話を始める。何度聞いても馬鹿馬鹿しい話に先生も大きな口を開けて笑った。
「先生、笑いすぎ」
「なあに、でも役に立ったじゃない。目覚ましより効果あったみたいね」
去り際にウインクする先生にため息をつく熊は、潜る実践練習を目前に頬を叩いて気合いを入れなおしていた。
「このあと少し風が強くなる予報です。こちらで危ないと判断したら撤収します。みんなはこの船の周りから絶対に離れないように」
ダイビング講習は十人程度の少人数制で、俺たちは小型船の上でスピーカーを通して話す佐伯先生を見上げながら波に揺られる。
今日は監視役の先生がふたりほど追加されていた。
「とにかく息は止めないこと。前回教えたようにゆっくり深い呼吸を心がけてね」
水中マスクで鼻が覆われていて、口呼吸をしながらたまに塩辛い水が口に入り込む。唾を吐きだし、ふと隣を見るとゴーグル越しにでもわかるくらい不安げな表情の熊と目が合った。