四人で歩き始めたら熊があっ、と口を開く。
「またあのままだ、暑くないのかな」
顔を上げれば少し前を桐島が歩いていた。
「そういえば夏らしい格好してるとこ見たことないんだよな」
彼女は黒のウエットスーツを着たまま、大きめのタオルを肩からかけて、ひとりだけ少し装いが違っていた。
他人の服装なんて大して興味はない。でもよくよく記憶をたどってみれば、歌う彼女と会ったときも、ふわっとした白い長袖を羽織っていたような気がする。
「熊くんって面食いなんだね」
林太郎と「そうだっけ」なんて首を傾げていたら、唐突に桜井月が言った。
面食らって声にもならない熊はパクパクと口を動かす。例えるならば鯉だ。
「いつも目で追ってたんでしょう。そうじゃなきゃ気づかないもんね」
「いや、月……」
「さすが桐島さんモテるんだなあ」
「ちがくて、俺は」
ひとりで勝手に納得している彼女にあたふたと慌て出す。手の動きが変に騒がしくなった。
「じゃあ友達とお昼の約束してるから先行くね」
しかしなにも気づいていない彼女は満面の笑みで手を振って走っていく。なんと虚しい光景だろうか。
俺たちは励ますように、両脇から一度ずつ熊の背中を叩いた。