「私の目に狂いはなかったわね。壇くんの出席率も良さそうだし、お引越し作戦成功」

 満足げに言う先生は、林太郎をサボらず登校させる目的で家に送り込んできた張本人だ。

 自宅謹慎が明けて以来、俺たちは毎朝一緒に登校しているから、結果的に先生の狙い通りになっている。

 当の本人は鬱陶しそうな顔で素通りしていき、俺たちも後に続いていく。

「あ、ちょっと待って熊木くん」

 しかし熊の名前が呼ばれ、三人で足を止めた。

「次回までに今日やったこと完璧にさせておいて。できなきゃひとりだけ居残り補習」
「え?」
「当たり前じゃない。うとうとして……、あれじゃ危なくて潜らせられないもの」

 熊の肩に手を添えて、いいわね、と怖い顔で念を押す。

 去っていく佐伯先生に愕然として、助けを求め振り向いてくるが、俺も林太郎も言わんこっちゃないと冷ややかな視線を向けた。

「やっぱり座学より実践の方が楽しいね」

 同じ授業を受けていた桜井月がふらっと現れる。

 ウエットスーツを腰のあたりまで脱いで、上半身は水着一枚になっている。珍しく髪を後ろで一本に束ねていた。

「月、俺補習かも」
「そりゃそうだよ。佐伯先生言ってたよ、一番の問題児がまた寝てるって」
「問題児? 俺が?」

 彼女の言葉に驚きを隠せず、熊は目を丸くする。

「林太郎を差し置いてそんな」
「お前、殴るぞ」

 そこに林太郎が加わってテンポよく言い合っている。そのうち、ふざけてじゃれあい出す。

 俺は側から黙って見ていることが多いけれど、その空気感が最近なんとなく居心地よくなり始めていた。