「とにかく早まるな」
「もう準備万端よ。それに最近ちょっといける気がするんだよなあ」
端から突っ込みたくなるセリフに頭を悩ませた。
「あ、戻ってきたんだ」
桜井月がタイミング悪く現れた。
話題の中心にいた人物の登場にふたりして無言になってしまい、「なに?」と怪しまれた。
「ほら、どっち」
俺は話題を変えようと、目を逸らしながらペットボトルのラベルだけを彼女の方へ向けた。
「選んでいいの?」
「ん」
「レモンかサイダー……じゃあ、こっち」
嬉しそうにサイダーを指さした。なにも間違ってはいないのだが、こちらの気も知らずにこにこしているのがどこか納得いかなかった。
「わっ」
「どーぞ」
わざと手渡さず、冷たいペットボトルを彼女の頬にあてた。
「なあに、びっくりしたあ」
そのまま熊を連れて彼女から離れる。
「とにかく時がくるまで待ってろ」
「え、師匠……」
馬鹿がつくほど単純でよかった。
熊の肩に腕を回し、背中を優しく叩いてやった。