「二本も買って誰の? 俺飲めないけど」
競泳中心の生活だった頃はとにかく泳ぎに支障があるものは摂取しないよう徹底していた。
だから炭酸なんて飲んだこともなかったし、買おうとも思わなかった。唯一、競泳を諦めたあの日にやけになって飲んだだけだ。ペットボトルの中で浮き上がる泡をなんとなく見つめた。
「そうだ、海。俺の決意を聞いてくれ」
突然真剣な表情で両肩を掴んでくる。思わずその勢いでペットボトルを落としそうになった。
「俺、月に告白しようと思うんだ」
「は?」
それは思いもよらない決意だった。
頭に浮かぶのは振られて部屋に引きこもる熊の姿しかない。どうして急にそんな馬鹿なこと思いついたのか。恋人の存在を必死に隠してきた俺の努力が無駄になろうとしている。
「ちょっと待て。再会して一ヶ月も経ってないだろ」
「そうなんだけどさ、思ったんだよ。早く付き合えればそのあとは楽しいスクールライフが待ってるって」
屈託のない笑顔に頭を抱えた。
言いたいことは分かるが、それは全て成功したときの話だ。どこからその自信が湧いてくるのか熊の頭には失恋という二文字はまるで浮かんでいないようだ。