「いらっしゃい」

 エンジン音を聞きつけて、大きなお団子頭が特徴的な色黒でふくよかな女性が家の中から現れた。

「マリアよ。よろしくね、みんな」

 まともに顔すら合わせていない俺たちが呆然としているのをよそに、玄関先で手招きする彼女はおそらく四十代半ばほどの中年女性だ。

 入学用パンフレットには、各家に食事や身の回りの世話をしてくれる人が駐在すると書かれていた。きっと彼女がその寮母のような存在なのだろう。

「日本人っぽくないな……」
「ええ、ハワイ出身なの」

 俺に向かってぽろりと囁いた熊の声をいち早く拾ったのはマリアだった。

 響くように返ってきた言葉に驚き、熊は彼女の笑顔に顔を引きつらせる。

 マリアは地獄耳。気づけば、これからルームメイトとなる五人が自然と顔を見合わせて固まり、何かを察したように静かに頷いた。