「言ったそばから」
「これはたまたまだよ」
「ほらまた転ぶから気をつけろって」
彼女の腕を捕まえながらため息が出る。
おっちょこちょいなのか、なんなのか。いつも危なっかしい。
「なんなのそれわざとなの?」
「違います」
彼氏がどこの誰だか知らないが、こんなにしょっちゅう転ぶような彼女をほったらかしてどこにいるのか。
思えば、俺たち以外の異性と一緒にいる場面に遭遇したことがない。キャンプの時も人目を気にするようにこっそりと会っていたし、どこかその関係を隠している節がある。
普通のカップルなら登下校を一緒にしたり、同じ授業を取ったりするものだろう。昼休みだって一緒にいるのはほぼ俺たちだ。
どうして同じ学校に通いながら彼氏と会話を交わさないのか。逆に不自然でならなかった。
「おふたりさん、なんか非常に仲良くなってない?」
すっかり熊がいるのを忘れていた。疑いの目を向けられてハッと手を離す。
「仲良いわけじゃ……」
「でも、壇くんのところに行った日からよく話して」
「あー!」
せっかく誤魔化そうとしているのに、桜井月が馬鹿正直に余計なことを言おうとする。
「熊、腹減ったし先に昼飯食べ行こう」
戸惑う熊を無理やり引っ張り、後ろからついてくる壇と三人で、岬の近くに一軒しかないレストランへと向かった。