「あ、誘ったら来るかなあ。桐島さん」

 ぼそっと呟いた声を耳にする。

 熊は知らない名前に首を傾げ、ルームメイトの女子たちは顔を見合わせる。頭には、オレンジ色の髪が浮かんだ。

「来ないだろ、あれは」

 即答したら、振り返った彼女が残念そうに眉を下げた。

「仲良くなれるチャンスだと思うんだけどなあ。誘ってみてもいい?」
「別にいいけど絶対来なさそう」

 桐島と似ていると言われたのを思い出す。

 だが俺はあそこまで人を寄せ付けないわけではない。あれは完全に心のシャッターを下ろしていて、簡単に心を開いてくれるようには見えない。

 口説き落とすのはなかなかの体力がいりそうだと直感で感じた。そもそも話しかけても返事が返ってこないの時点で終わっている。

「そうだ、私サンダル探さなきゃ」

 彼女はいきなり思い出したみたいに言う。
 きょろきょろ辺りを見回し始め、衣類のコーナーへ向かおうとする彼女がサンダルを履いている姿を想像する。

「転ぶ画しか浮かばないんだけど」
「ちょっとそんなことない!」

 ムッと頬を膨らませ俺の腕を叩いてくる。
 そこでも大きめの石ころを踏んづけて、また目の前でよろめいた。