「汐江、どうしてお前の自転車がこんなところにある」

 早速、朝倉の目が俺に向いた。後ろにいる他の教師はタブレット片手に俺の顔をちらちらと見ながら、素性でも調べている様子だ。

「置いていたのを忘れてました」
「ほお、じゃあ質問を変えよう。どうして謹慎中の壇林太郎(りんたろう)と一緒だった」

 どう答えるのが正解か。必死に打開策を考えこんだ。

「なんだ。自宅謹慎中に家を出なきゃならないほど、のっぴきならない事情があったんじゃないのか」

 圧をかけてくる朝倉の言葉で、ふと桜井月の姿が頭に浮かんだ。いい策を思い立った気がした。

「はい、そうです。一大事でした」
「なに?」
「壇くんが自宅謹慎中とは知らず、どうしても助けてほしいと俺が無理やり連れだしました」

 怪訝そうにこちらを見てくる朝倉の表情に、一瞬ひるみそうになる。

 でも一か八かだ。上手くいくかは分からなかった。桜井月の元へ向かい、戸惑う彼女を連れて朝倉の前に突き出した。

「彼女が山道で遭難してたので人命救助です」

 ちょうどいい汚れ具合。これが証明だと言わんばかりに彼女の顔や衣服をついた土を見せつける。何も知らない彼女は驚いて声を漏らしそうになるが、大きな咳払いでかき消した。

 俺は朝倉から視線を逸らさなかった。