「お前らもう帰れ」
「ちょっと、壇くん?」
茂みの陰に隠れてタイミングを伺っていると、暴走する壇は桜井月の制止も聞かずに動き出す。
無謀にも丸腰で敵陣へ乗り込もうとしていた。
閑散とした空気の中、主任教諭の怒鳴り声が異様に響く。服を掴み、強引に歩かせようとしている。
「どうしていつも、ひとりだけ悪者になろうとするの」
悲しそうにぽつりと口にした彼女の言葉を聞き、頭をかく。面倒臭いとは思いながら放ってはおけずに、俺も続いて足を踏み出した。
「すみません、それ俺のです」
ちょうど声を出したとき、壇は主任教諭の朝倉(あさくら)に襟元を引っ張られ、首をぐっと引き寄せられているところだった。
朝倉は学校初日から生徒をどこか見下しているところがあった。先生と敬称をつけるのも気が進まないほど、いけ好かないやつだ。
「君は」
「汐江海です」
視線がこちらに集中するのと同時に、壇の首元にかかった手もだんだんと緩んでいく。苛立ちを見せ手を振り払う壇は朝倉を睨みつけ、こちらに近づいてきた。
「お前助けにきたつもりかよ」
「格好つけんな。どうせ自転車のナンバー調べられたら俺のだってバレるんだよ」
目も合わせず、すれ違う形で言い合った。