たしかに壇の写真は、あまり興味がない俺でも凄いと感じた。自然の中で暮らす生き物たちが今にも動き出しそうに生き生きと映っていて、カレンダーやポストカードになっている写真と遜色なかった。

 携帯と一眼レフのカメラの違いも分からないような素人だが、それでも胸打つものがあった。

「帰るぞ」

 壇はとうとう彼女からカメラを取り上げ、携帯のライトで足元を照らしながら歩きだす。桜井月は口を尖らせ何か言いたげな表情を浮かべるも、仕方なく立ち上がった。

「壇くんってカメラマンになるの?」

 不意に彼女が声をかける。

「絶対なれるよ! プロのカメラマン」

 それでも黙って歩いていく後ろ姿に、彼女は構わず話しかけた。

 返答はないまま山道を抜けた。

 街灯の明かりが少しずつ大きくなり始め、大通りが見えてくる。足早に俺は近くの茂みから足を出そうとしたところ、壇に肩をつかまれ止められた。

 近くには人影が見えていた。

「あ」

 先程置き去りにしていった自転車の周りを、巡回していたであろう教師たちが囲んでいた。険しい顔で何やら話し合いをしている。

 なんともまずい状況だ。島では危険なこともあるからと深夜の外出は禁じられていて、門限も十時までと決まっている。

 腕時計は七時半を指していた。決して規則を破っているわけではないが、まずいのは自宅謹慎中の壇の方だ。

 俺は自転車を放置していったことに注意を受ける程度だろうが、もし壇が家を抜け出していたと知れれば、更なる罰則を免れないはずだ。