「変な恩売らなきゃよかった」
ぶつぶつと呆れ顔で言う壇の声に、彼女は苦笑いを浮かべる。
「ごめんなさい。邪魔するつもりはなかったんだけど、つい気になって」
先程から〝恩〟とか〝言わない〟とか、ふたりにだけ分かるなにかがあった。
関わりたくはないと気になりもしなかったが、壇も厄介な女と関わってしまったのだと少しだけ同情した。
「なに撮ってたの?」
「見せるほどのもんじゃない」
「見たいなあ」
それからは止まらない彼女の好奇心が、壇の心の壁をもろともせずに突き進んでいく。
汚れてしまった服を手で払いながら頬にまで土をつけてにやりと笑った。
辺りを夕焼けが赤く染め始める。時間を気にしながら空を見上げる壇は、桜井月をちらりと見て諦めたように立ち上がる。
「あんたらのせいで予定が狂った」
首から下げていたカメラがそっと地面に置かれた。
もうすっかり辺りは暗くなってきた。
「気は済んだか」
壇は痺れを切らして桜井月の前にしゃがみ込んだが、まるで彼女の耳には入っていかないようだ。
カメラの写真に夢中になって目を輝かせていた。