「海くん?」
「シッ」

 あの時と同じだ。

 森の中を小さくこだまする、バシッというなにかをとらえるようなシャッター音。ゆっくりと音のする方へ進んでいき、桜井月も黙って後ろからついてきた。

 間隔をあけて聞こえてくるその音に導かれ、道なき道を進む。

 ようやく音の中心にたどり着いたら、そこには壇の姿があった。

 俺たちは木の陰に隠れながら目だけを覗かせる。一眼レフのカメラを構え、服が汚れるのも気にせず這いつくばってなにかを撮影しようとしている壇の真剣な顔を見た。

「なに撮ってるんだろう」

 彼女は興味津々でぐっと木に体を寄せている。

「気をつけろよ」

 砂浜での記憶がよみがえり、なんとなく危なっかしさを感じて小声で忠告する。壇を観察しながら彼女のことも注意して見ていた。

「うわ」

 でも目を離した瞬間、バランスを崩した彼女が目の前で倒れそうになる。慌てて腕を取ったはずがあと一歩間に合わず、手の中をすり抜けていく。

 桜井月はスライディングするように土の上を滑っていった。

「ばか」

 壇からはもう丸見えで、案の定足音がこちらへ近づいてきた。

「しつこい」

 冷たく告げる壇は、彼女に手を差し伸べ起き上がらせる。俺ももう出ていかないわけにはいかず、面倒だと思いながらその場から立ち上がった。